業界研究
自社開発・受託開発・技術派遣(SES)のメリット・デメリットと事業領域
writer: 新城
投稿日: 2024.04.18
自社開発・受託開発・技術派遣(SES)とは?
エンジニアについて調べていると、自社開発・受託開発・技術派遣(SES)という言葉をよく見かけると思います。 これらはIT業界における開発方式の種類のことで、エンジニアの働き方に密接に関連します。就職や転職を目指す方にとっては、 その会社がどういう開発をしているかによって働き方が大きく変わるので、必ず理解する必要のあるポイントとなります。 この記事ではこの3つの違いについて解説していきます。まず、ざっくりと3つの開発方式を説明すると以下の通りです。
- 自社開発 システムやアプケーションの企画から保守・管理まで全てを自社で行う開発方式。
- 受託開発 顧客から開発依頼を受け、要望を満たした機能を実装したシステム、 アプケーションを開発する方式。
- 技術派遣(SES) 自社の技術者を顧客企業に派遣し、派遣先の指揮命令の下、開発を行う方式。
自社開発・受託開発・技術派遣(SES)のメリット・デメリット
-
自社開発
-
メリット
開発業務の企画から運用保守まで経験できる。自分のアイデアを形にできる。
-
デメリット
多様な言語、技術の習得が難しい。収入が売り上げに左右される。
自社開発では、サービスの企画から携われるのが大きなメリットとなります。受託、SESではこの段階から開発に携わることはできません。どのようなサービスが求められているのか、そのサービスにどんな機能を追加すれば人気がでるか等のマーケティングスキルも必要になってくるため、マーケティングスキルを伸ばせるのは魅力的です。上流工程から運用保守に関しても自社で行っているため、開発に携わる知識が横断的に得られるのもメリットといえます。
売上-コスト(人数など)=利益の式で計算できるように、利益を増やすため、できるだけ少ない人数で維持しようとします。そのため、後で説明する受託開発や技術派遣(SES)企業と比べると、間口が狭く、高いスキルを要求されるため、未経験での就職は難しくなりがちです。
一度サービスを開発してしまえば、そこで使用した言語、技術は自社のものなので他の自社サービスにも転用されます。なので、取得できる技術に偏りが発生する場合があり、広い技術を習得したい人にとってはデメリットになります。
売上は自社サービスがどれだけ利用されているかによって左右されます。それが「メルカリ」のように大多数の人に利用されているものなら大きな売上を発生させますが、そうならないことの方が多いでしょう。一部の成功した自社開発企業が目立つので、年収が高く見えてしまいがちですが、実際の所は人気なサービスを自社で開発できた場合のみ、収入に反映されるため高くなります。
-
-
受託開発
-
メリット
広い知識、技術を習得できる。多くの会社と関係が持てる。
-
デメリット
納期が決まっているため多くの残業が発生する恐れがある。
受託開発では、要件定義、設計、開発、テスト、運用のプロジェクト工程を一部、または一貫して顧客企業から引き受けます。開発に携わる知識が横断的に得られるのは、自社開発と同様にメリットになります。
受託開発会社は、サービスを納品することにより売上が上がります。一度、取引が始まると、顧客が継続的に発注してくれる傾向があるため、自社開発に比べて業績が安定しやすくなります。なので、一つの会社に長く勤務している人も少なくありません。経験豊富なエンジニアが近くにいる環境なので成長しやすいです。
自社のエンジニア数が増えれば増えるほど引き受けられる案件は増えるので、自社開発に比べると未経験でも就職できる可能性は上がります。しかし、納品まで責任を負う性質上、より多くの時間を研修やOJTに費やすので、低スキル案件を抱えていたり、派遣段階で売上の発生する技術派遣(SES)に比べると慎重に採用を進める傾向があります。
自社開発とは異なり、プロジェクトの主導権を握っているのは顧客なので要望、納期には対応しなければいけません。時間的に余裕がないときに、顧客から変更要望等があったときにも対応しないといけないため、まとまった残業が発生する可能性があります。また、受託開発の場合は社内に営業組織があることも多く、この営業組織の力が強いと、エンジニアのキャパシティー以上の仕事を引き受けてしまい、長時間労働が常態化してしまう職場もあります。(弊社は営業組織のない受託企業なので、残業時間は短いです!)
-
-
技術派遣(SES)
-
メリット
多様な現場を経験できる。残業が少ない場合が多い。
-
デメリット
給料が上がりにくい。現場によっては経験を積めない場合もある。
技術派遣(SES)は依頼によって、様々な現場、案件に携われるため幅広い経験が得られます。普通なら経験できないような有名企業の開発現場も経験することができます。働く場所も変わるため前の案件でうまくいかなかった場合や苦手な人がいた場合でも、心機一転して新しい案件に取り組めます。また、契約により労働時間が決められている場合が多く、常駐先からではなく、属している責任者から指示があった場合のみ残業になるので残業が発生しにくい構造になっています。一方、デメリットとしては案件によっては、思ったようなスキルや経験が積めず、収入が上がらないということがあげられます。
こうしたメリットやデメリット、どちらが目立つかは入社する会社、アサインされる案件によって大きく左右されます。経験があるエンジニアであればある程度案件は選べますが、初心者は受け入れてくれる案件が少ないため選べないことも多く、低スキル案件や低単価案件ばかりにアサインされてしまうこともあるでしょう。悪質になると、ショッピングモールでの携帯電話販売に派遣されるという噂もあったりします。めったにある話ではないと思いますが、万一、そうなってしまった場合は、エンジニアとしてのキャリアが積めず、まともな案件を受けられなくなってしまうため、早めに次の職場を探すのが良いかもしれません。
とはいえ、自社開発、受託開発に比べて、技術派遣(SES)企業は一つの工程に特化して働くため、初心者が一番働きやすい企業形態であるのも事実です。雇った人数に比例して売上が増えるビジネスなので、間口も広いことが特徴です。このことから、はじめのキャリアとして技術派遣(SES)を選ぶ方は多くいます。
-
本当にそこまで分かれているの?
自社開発、受託開発、技術派遣(SES)の違いやメリット、デメリットを説明しました。では自社開発は自社開発のみ、受託開発は受託開発のみを行っているのでしょうか?結論を述べると、そうではありません。2015年に発行されたものになりますが、厚生労働省の働き方・休み方改善ハンドブックによると、客先常駐を行っている企業は9割を超えています。
ですが、開発を行っている会社の9割がSES企業というわけではありません。Qiitaのエンジニア白書(Qiitaを利用しているユーザーを対象にしたアンケート結果をまとめたもの)によると、自社開発が57.4%、受託開発が35.1%となっているため、SESの人があまり利用していないと仮定しても、開発会社の9割がSESとはならないでしょう。
なぜこのような異なる結果が出たかというと、自社開発でも受託開発でも客先常駐を行っているからです。自社開発、受託開発をメインに行っていたとしても、それだけで自社が抱えるエンジニアを100%稼働させることは難しいことも多いです。開発工程から見ても人がたくさんいる工程、そこまでいらない工程がありますし、受託の場合は、そもそも依頼が少ないとエンジニアは稼働できません。
例えば、弊社の場合、受託開発をメイン事業としています。外部の人に会社紹介する時は受託開発企業と名乗っています。とはいえ、受託開発のみを行っているのではなく、自社開発製品として「みんなでガント」というプロジェクト管理ツールを企画、運営しています。客先常駐している従業員も少数ながらいますので、SES事業も行っているといえるでしょう。このように、受託開発の会社に入社したから受託のみ、自社開発だから自社開発のみを行えるとは限りません。あくまでその開発をメインに行っている会社というのが認識的にはあっていると思います。なので、完全に分かれているわけではありません。
まとめ
未経験者の方は受託開発かSESどちらに就職したいか悩むかと思います。自社開発企業に就職したとしても、部署やプロジェクトによっては受託開発や客先常駐となる可能性もあるでしょう。絶対に自社開発が良いという場合は、選考前に従業員の人に直接話を聞く機会を設けたりしてリサーチしておく必要があるでしょう。
とはいえ、どの企業に就職するにしても知識、経験を積めば、自分のやりたい分野に進むことは可能です。既に何年も経験を積んでいるという場合でなければ、まずはエンジニアになって知識、経験を積んでから希望の働き方をしてみるのも遅くはないのではないでしょうか。